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スターバックスは、なぜ日本事業を売却するのか?

  • 前田義徳
  • 6月11日
  • 読了時間: 12分

更新日:4 日前

多くの経営者が見落とす「事業」と「資産」の違い


2026年6月11日


「スターバックスが5000億円規模で、日本事業の売却を検討している」

そんなニュースが報じられました。


多くの人はこう考えます。

「売却するということは業績が悪いのか?」


しかし、経営の世界では必ずしもそうではありません。

むしろ逆です。

優良企業ほど、高く売れる時に売るのです。


そして今回のニュースは、単なるM&Aの話ではありません。

世界を代表する企業が、次に何を見ているのかを示す重要なサインです。




■「売る=失敗」ではない

もし赤字事業を売却するのであれば話は簡単です。


しかしスターバックス・ジャパンは違います。

店舗数は2,000店を超え、ブランド力も圧倒的です。

日本市場での存在感は十分に確立されています。


経営者の視点で見ると、

「まだ伸びる事業」

ではなく、

「育て切った事業」

に近い状態です。


ここで考えるべき問いがあります。

スターバックスは何を売ろうとしているのか?


実は、

「コーヒー事業」

ではありません。

「店舗資産」

です。




■ 経営者が知るべき「事業」と「資産」の違い

例えば賃貸マンションを考えてみてください。


毎月安定した家賃収入が入る。

これは素晴らしい資産です。

しかし、

ある投資家が高値で買いたいと言ってきたらどうでしょう。

将来10年間の家賃収入を待つより、

今まとまった現金を受け取った方が良い場合があります。


企業経営も同じです。

スターバックス日本は、

十分に成熟し、

安定した利益を生み出す優良資産になっています。

だからこそ価値が高い。

しかし、

「これ以上2倍3倍になる市場ではない」

「今なら高値で売れる」

だからこそ売却候補になるのです。




■ 決算資料に隠れている5つの異変⁈

ここで実際の決算資料を視て分析してみると、次の5つの異変が起こっていることが分かります。(詳細分析は、本文末参照)


異変①:売上は増えているのに、利益が急落している

異変②:売上成長の中身が、既存店の強さではなく“店舗数・買収・外部要因”に寄っている

異変③:北米の利益構造が大きく崩れている

異変④:キャッシュフローはまだ強いが、配当とのバランスに違和感がある

異変⑤:中国事業は回復サインがあるのに、支配構造を変えようとしている


これら5つの異変をまとめると、スターバックスが直面している本質は、

「スターバックスらしさを取り戻すために投資するほど、短期の利益・資本効率・統制が傷ついている」ということを示唆しています。


つまり、起きている異変は単なる業績悪化ではなく、次のジレンマを同時に解かなければならない局面にあるということが分かります。


①売上増でも利益急落→「ブランド再生投資」vs「利益率防衛」

②成長の中身が店舗数・買収依存→「規模拡大型成長」vs「既存店密度成長」

③北米の利益構造悪化→「店舗体験の復元」 vs 「店舗網の合理化」

④配当と変革投資の緊張→「株主還元の信頼」 vs 「変革投資の自由度」

⑤中国JV化→「ブランド支配権」 vs 「現地適応スピード」


この5つの中で最も重要なのは「ブランド再生投資」vs「利益率防衛」です。

なぜなら、これを最初に解かなければ他の4つも解けないからです。


つまり、スターバックスは、ブランド体験を取り戻しながら利益率も戻すという、かなり難しい再設計に迫られていることが分かります。




■CEOは本当に何を見ているのか?

ここで視点を変えてみましょう。


スターバックスのCEOは、

本当にコーヒーを売っているのでしょうか?


実は違います。


彼が見ているのは、

毎日何百万人もの顧客の行動データです。


例えば、

・誰が来店したか

・何時に来店したか

・何を購入したか

・どの店舗を利用したか

・どのクーポンに反応したか

・どれくらいの頻度で来店するか

こうした情報が日々蓄積されています。


つまり、

スターバックスは

「コーヒー会社」

であると同時に、

「顧客接点データ会社」

でもあるのです。



■ Amazonは本を売る会社ではなくなった

かつてAmazonは本屋でした。


しかし今、

Amazonの本当の価値は何でしょうか。

物流でしょうか。

ECでしょうか。

違います。

顧客データです。


Amazonは、

「次に何を買うか」

を予測できます。

だから強い。


実は、スターバックスも同じ方向へ進んでいます。




■ スターバックスの未来はコーヒーではない

ここで多くの経営者が驚きます。

スターバックスの将来価値は、

コーヒー販売そのものではない可能性があります。


例えば、

朝7時にアプリを開くと、

「今日は暑いのでアイスラテはいかがですか?」

と表示される。


来店頻度が落ちた顧客だけに、

特別クーポンを送る。


顧客ごとに最適な商品を提案する。

これはすでにAI時代のマーケティングです。




■ 本当の競争相手はドトールではない

多くの人は、

スターバックスの競争相手を

ドトールやタリーズだと考えます。


しかし経営視点では違います。

本当の競争相手は、

Amazonです。

Netflixです。

Appleです。


つまり、

「顧客との接点を持つ企業」

です。




■ スターバックスは会員経済圏を作ろうとしている

さらに興味深いのは、

スターバックスが旅行会社やホテルとの提携を強化していることです。

これは単なるキャンペーンではありません。

その先にあるのは、

「会員経済圏」

です。


朝はスターバックス。

出張はホテル。

移動は航空会社。

それぞれのサービスが会員データでつながる。


すると企業は、

コーヒーを売るだけではなく、

顧客の日常そのものに入り込めます。



■2030年のスターバックス(仮説)

2020年までは

「世界中に店舗を持つ企業」


2030年は

「世界最大級のコーヒー顧客プラットフォームを持つ企業」

という構想の可能性が高いと考えられます。


とするならば、日本事業売却は単独のイベントではなく

「店舗資産から顧客資産への転換」

の一部と考えられます。


その中で、今回のニュ-スにある5,000億円という規模を見ると、

日本事業の価値が高いうちに資本化し、その資金をAI・デジタル・顧客体験改革へ再配分するという発想の方が、単なる資金不足や業績悪化説よりはるかに合理的です。


では、2030年のスターバックスは、どんな会社になるのか?


私が示唆した「顧客接点データを持つ会社」というのは、

「コーヒーを売る会社ではなく、顧客の行動を毎日把握できる会社」

という意味です。


スターバックスの経営陣は、

コーヒー売上ではなく、


・誰が

・いつ

・どこで

・何を

・いくらで

・どの頻度で

・どんな組み合わせで


購入しているかです。


そして現在、既に米国では約3,550万人のアクティブ会員を持つ巨大な会員基盤を運営していることからも分かります。


新たな事業として考えられる最も利益率が高いのは「リテールメディア事業」だと考えます。

例えば、「アプリ会員の中」で

・20代女性

・年収600万円以上

・都心勤務

が分かる。


すると企業は

「その人たちに広告を出したい」

となる。


Amazonが今や広告会社になっているのと同じ構造です。


つまり、2,000店舗よりも

「毎日利用する数千万人の顧客データ」を重視するのが経営者だからです。


なぜなら、店舗は競合が真似できるが、顧客データは真似できないからです。


このような考察から、日本事業の売却話は「コーヒー事業を手放す」ということではなく、

「店舗資産の保有を減らし、顧客データと会員経済圏へ資本を集中する」

というポートフォリオ転換の一手として理解すると、かなり筋が通ります。




■ 日本企業への示唆

ここで重要なのは、

スターバックスの戦略を真似することではありません。


学ぶべきは問いです。

「あなたの会社は何を売っていますか?」


製品でしょうか。

サービスでしょうか。


本当にそうでしょうか。

製品を売っていると思っていた会社が、

実は顧客データ企業になれるかもしれません。


サービス会社だと思っていた会社が、

実はコミュニティ企業になれるかもしれません。


多くの経営者は、

現在の事業を見ています。


優れた経営者は、

自社が将来どの資産を持つべきかを見ています。




■ 最後に

今回のスターバックス日本売却検討のニュースは、

「コーヒー会社の話」

ではありません。


それは、

世界のトップ企業が、

店舗資産から顧客資産へ、

事業からデータへ、

モノから関係性へ、

価値の源泉を移していることを示しています。


そして本当に重要な問いは、

「スターバックスはなぜ売るのか?」

ではありません。

「自社が持つ本当の資産は何か?」

です。


この問いに答えられる企業だけが、

次の時代の成長機会を掴むことになるでしょう。


つまり、今回のスターバックス日本売却検討のニュースは、

「攻めのポートフォリオ再編」

に近い動きと私は見ています。




■ QYNE診断

では、あなたの会社は、本当に何を売っているのでしょうか?


QYNEは、決算書や事業データ、経営課題から、経営者自身も気づいていない「見落とされた論点」や「次の成長機会」を発見します。


まずはQYNEに次の問いを入力してみてください。

「当社は現在○○事業を行っています。しかし、本当に保有すべき資産は何なのか?決算情報・市場環境・顧客接点の観点から、2030年に向けた事業ポートフォリオを分析して欲しい。」





【分析】決算資料に隠れている5つの異変


『異変①:売上は増えているのに、利益が急落している』


何が起きている?

FY2025の連結売上は372億ドル、前年比+3%。一方で、GAAP営業利益率は7.9%まで低下し、前年比▲710bps。EPSは1.63ドル、前年比▲51%。Non-GAAPでも営業利益率は9.9%、▲500bps、EPSは2.13ドル、▲35%。


なぜ異変なのか

通常、Starbucks規模のブランド企業で売上がプラス成長なら、少なくとも利益率は横ばいに近い水準を期待されます。しかし今回は、売上+3%に対してEPSが半減しています。これは「成長している会社」ではなく、売上を維持するために利益を大きく犠牲にしている会社の特徴です。 さらに同業比較では、フランチャイズ比率が高いMcDonald’sの2025年営業利益率は46.1%で、Starbucksの7.9%とは構造的に大きな差があります。


経営上の含意(仮説)

「Back to Starbucks」はブランド再生策としては正しい可能性がありますが、短期的には人件費・店舗改善・閉店関連費用を吸収できていない。つまり、今のStarbucksは成長企業というより、高収益モデルの再構築フェーズに入っていると考えることができます。



『異変②:売上成長の中身が、既存店の強さではなく“店舗数・買収・外部要因”に寄っている』


何が起きている?

売上+3%の主因は、過去12カ月の新規直営店、Global Coffee Alliance、英国ライセンスパートナー「23.5 Degrees Topco Limited」の買収による増収です。

一方で、グローバル既存店売上は▲1%、その内訳は取引数▲2%、客単価+1%です。


なぜ異変なのか

ブランド力の強い外食・カフェ企業で本当に回復しているなら、既存店の取引数が先に戻るはずです。しかし、ここでは売上増加の一方で、既存店の来店・取引数はまだ減っています。これは、顧客が戻っているというより、価格・店舗数・買収で売上を支えている構図です。


経営上の含意(仮説)

「ブランド再生」はまだ数字上は完全には証明されていません。経営上の注目点は売上成長率ではなく、今後の既存店取引数の反転が継続するかです。第4四半期にグローバル既存店売上が7四半期ぶりにプラスに戻った点は改善サインですが、年次ではまだマイナスです。



『異変3:北米の利益構造が大きく崩れている』


何が起きている?

FY2025の北米セグメント売上は273.7億ドル、前年比+1.3%にとどまる一方、北米の営業利益は9.50億ドル、前年比▲9.2%。営業利益率は12.1%で、前年の14.2%から低下しています。さらに店舗運営費は直営店売上比で51.8%、前年の51.2%から上昇しています。


なぜ異変なのか

北米はStarbucksの中核市場です。その北米で売上成長が低く、店舗運営費率が上がり、営業利益率が下がっています。特にQ4では、米国店舗数に520店の閉鎖が含まれており、全社でもQ4に627店を閉鎖しています。これは通常の出店調整ではなく、店舗ポートフォリオの再構築です。


経営上の含意(仮説)

Starbucksは「出店すれば利益が積み上がる」段階から、不採算・低効率店舗を整理しなければ利益が戻らない段階に入った可能性があります。北米の店舗網が飽和し、モバイルオーダー、ドライブスルー、店内体験、労務コストの再設計が必要になっています。



『異変4:キャッシュフローはまだ強いが、配当とのバランスに違和感がある』


何が起きている?

FY2025の営業キャッシュフローは47.5億ドルで、前年の61.0億ドルから大きく減少。設備投資は23.1億ドルなので、概算フリーキャッシュフローは約24.4億ドルです。一方、配当支払いは27.7億ドルで、フリーキャッシュフローを約3.3億ドル上回っています。


なぜ異変なのか

決算資料では、StarbucksはFY2025に株主へ28億ドルを配当で還元し、15年連続増配にも触れています。 しかし、営業CFが減り、店舗投資・再構築費用が必要な局面で、FCFを上回る配当を維持している点は、財務柔軟性の面で違和感があります。


経営上の含意(仮説)

経営は「株主還元の継続」を強く意識していますが、同時にTurnaround投資も必要です。今後、利益率回復が遅れると、配当維持・店舗投資・債務管理の三立が難しくなる可能性があります。なお、FY2025は自社株買いがゼロであり、株主還元の中心を配当に寄せている点も、守りの資本政策に見えます。



『異変5:中国事業は回復サインがあるのに、支配構造を変えようとしている』


何が起きている?

決算資料では、FY2025終了後にBoyu CapitalとのJV設立に合意し、Boyuが中国小売事業の最大60%を保有、Starbucksは40%を保持し、ブランドと知的財産をライセンス供与する形に移行するとされています。

一方、Starbucks公式のQ4データでは、中国のQ4売上は8.316億ドル、前年比+6%、既存店売上は+2%、取引数は+9%と回復しています。ただし客単価は▲7%です。


なぜ異変なのか

普通なら、成長余地が大きく、直近で取引数が戻っている市場は自社で取り込み続けたいはずです。それにもかかわらず、小売運営の支配権を外部パートナーに渡す方向です。これは「成長市場だから投資する」ではなく、成長市場だが運営リスク・競争・価格圧力が大きいため、資本負担を下げる判断に見えます。


経営上の含意(仮説)

中国は成長市場でありながら、Starbucksにとってはもはや単純な利益拡大市場ではなく、ローカル競争・価格下落・店舗運営リスクを伴う市場になっています。今後のStarbucksは、中国を「直営拡大型」ではなく、ブランド/IPライセンス型の収益モデルへ移す可能性があります。



総括:最大の違和感

一番大きな異変は、売上成長の見た目と、事業の実態がズレていることです。

売上は+3%、店舗数は4万店超、Rewards会員も3,420万人で+1%。表面上はまだ巨大ブランドの安定成長に見えます。


しかし中身を見ると、既存店取引数はマイナス、営業利益率は大幅低下、EPSは半減、北米は店舗再編、中国はJV化、FCFを上回る配当維持です。


経営上の本質は、Starbucksが「成長企業」から一時的に、ブランド再生・店舗再設計・資本効率再構築の会社に変わっている点です。投資家や経営者が見るべきKPIは、今後しばらく「売上成長率」ではなく、取引数、店舗運営費率、北米営業利益率、FCF、そして中国/JV後の利益貢献です。



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